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  • 自然と人のつながりを通して、 真の豊かさを見つける。
  • 直し、蘇らせて、 信頼を積み重ねる
  • 「やってみない?」に、 応えられる自分でいる。
  • お守りのようなアイテムで、 いつもの自分をキープする。
クリエイティブディレクター/学生 木本 梨絵さん

自然と人のつながりを通して、
真の豊かさを見つける。

interview2024.09.26

ブランディングディレクターとして、ディベロップメントからスキンケア、ホテルなどジャンルを越境して多数のプロジェクトを手がけてきた木本梨絵さん。トップスピードで駆け抜け続けてきた彼女が今年に入り、仕事を一気にスローダウンし、突然のイギリス留学へ。その決意の裏には、自然との関係があったと言います。慣れない海外での学生生活。その中で、心と体の健康と保つために大事にしていることを伺いました。

プロフィール

木本 梨絵さん
クリエイティブディレクター/学生 木本 梨絵さん

きもと・りえ/1992年生まれ。株式会社HARKEN代表。武蔵野美術大学特別講師、女子美術大学非常勤講師。東京とロンドンを拠点に不可分な都市と自然の周縁を学ぶ。自然環境における不動産開発「DAICHI」を運営。旅、自然、日本文化に関わるさまざまな業態開発やブランドの企画、アートディレクションを行う。 https://harkenic.com/

私のとある一日

スローダウンは突然に

―現在はイギリス・ロンドンと東京の二拠点生活を送られている木本さん。まずは、海外へ行かれる前の話から聞かせてもらえたらと。

子どもの頃から絵を描くことが大好きで、大学では美大に進学し、インテリアデザインを学びました。卒業後、就職した会社で一年半、飲食店での接客業を経験した後、念願のデザインの部署に配属。ただ、渡された名刺にはなぜか「グラフィックデザイナー」と書かれていたんです。グラフィックデザインは未経験で、わからないことも多かったのですが、毎日勉強しながらがむしゃらに働いて。その努力を認めてもらえて、クリエイティブディレクターになることができました。そこではレストランや本屋などさまざまな事業のブランディングを手掛けるなどやりがいのある仕事がたくさんでき、充実していたのですが、このまま居心地の良い会社にい続けると、自分の成長が止まっていくのではないかと感じるようになって。停滞感から脱却するために、独立しようと思いました。

会社を設立して、すぐにいろんなところからお仕事をいただいて、一番多い時は15件以上の案件を抱えていました。当時はスタッフもおらず、徹夜が続くハードな日々。でも、どの仕事も楽しくて、手を抜きたくなかったんですね。ただ、真剣に取り組めば取り組むほど、自分が限界になっている感覚があって。それでもともと興味があった自然や旅、日本文化に携わる仕事だけに絞ろうと思って、仕事を徐々に減らしていきました。

―仕事を減らすのは、かなり勇気のいる決断だったのかなと思うのですが。

自分のマインドとしては、もっと一つひとつの案件に時間をかけて取り組みたいと思っていたので割とすんなりとできました。仕事は絞ったけれど、次第にアウトプットに限界が来ていて、自分が空っぽになっている感覚があったので。だったら、思い切ってインプットの時間を設けて、自分の知識を深めようと思ったんです。それで以前から興味のあった自然についてを学ぼうと思いました。

―イギリス留学を決断したのはどういう理由でしたか?

昨年ノルウェーに旅をしたことがきっかけでした。その時ノルウェーやフランス、デンマークの人たちと一緒に森を歩いたのですが、西洋の人は自然との距離がすごく近いなと感じることが多々あったんです。ごく当たり前に森の中に生えている食べられるキノコとそうでないものを見分けたり、ベリーの名前をたくさん知っていたり。森と人間の距離がすごく近いことに驚きました。そして、森を歩きながら、彼らは自然に抱く思いや価値観を話してくれていたんですが、当時あまり英語が得意ではなかったので、今振り返れば理解できていたのは半分ほどだったんじゃないかなと思います。

それでも、やはり彼らの自然観を垣間見る中で初めて日本人と森の関係性について客観的に考えられるようになった自分もいて。これは今まで日本の森にしか入ったことのなかった自分にとって、初めての感覚でした。これをもっと突き詰めたいと思うと、もっと英語を理解できるようになる必要がある。森から帰ってそのまま旅先で大学を調べ始め、帰国後に理想の学校がロンドンにあることを知り受験。同時にクライアントに「半年後に仕事をクロージングできないか」と相談を開始しました。 

―渡英してからの生活はどうでしたか?

今年の3月から6月までは語学学校に通いました。というのも去年まったく英語を話せなかったくらいなので、大学で授業を受けられるレベルに持っていくためには語学力をアップする必要があったんです。

子どもの頃は勉強が得意ではなかったのですが、今はすごく楽しいですね。好きなことを学ぶために仕事を調整して時間を作って、学費も自分で払って、やりたいことを学べる環境があることのありがたさを噛み締めています。そして、人間はいくつになっても学べるということを実感して楽しいです。32歳というのは、英語を学び始めるには早くはない歳なのかもしれないけど、このタイミングで学ぶ喜びを体感できたのは幸せだなと思っています。

心と体の状態を正しく知る、記録する。

―仕事と勉強の配分は?

語学学校に通っていた時は学校が昼からだったので、朝起きてから午前中は仕事の時間に充てていました。帰宅後に仕事をすることもありますが、語学学校の友人とシェイクスピアの劇を観に行ったり、ロンドン交響楽団の音楽を聴きに行ったり、コンテンポラリーダンスを鑑賞したり。鑑賞後みんなで感想を言い合うのも楽しいし、英語の勉強にもなるので。家にこもって教科書とにらめっこするのなら日本でもできる。街と人と関わり合いながら英語を習得する方法を実践すると、わざわざロンドンに来た意味が見出せるかなって。

―慣れない海外生活で、体や心はどうやって整えていますか?

実はイギリスに来てから不調の連続でした。日本では想像できないようなトラブルが日々起きて、その度に落ち込むし、悲しみにも飲み込まれて。さらに、体調を崩すことも多々あって、身も心もボロボロでした。ストレスが多過ぎて、”悪夢を見ることがある”と、語学学校の友人に話したら、「梨絵はオーバーシンキングでセンシティブすぎるよ」と笑い飛ばされたんです(笑)。それで、「そっか、ちょっと考えすぎなのかも」と自覚してからちょっと楽になりました。

あと、モヤモヤしたり、しんどいと感じる日は日記をつけるようにしています。これは、数年前に心の調子を崩してしまった時に始めた習慣です。notionにその日あったことを書き出して、「その日の自分を褒めたいこと」「その日見た美しいもの(こと)」といった項目に合わせてそれぞれ書き出しています。

文字にすることで自分と対話している感覚があって、不安や不満、悲しみを客観的に捉えることができて、ネガティブな感情に引っ張られることが少なくなったような気がします。

―「その日見た美しいもの(こと)」を記録するって素敵ですね。

そうですね。「その日見た美しいもの(こと)」を書き記すために、日常のささいな美しい瞬間も見逃さないようになりました。それで、毎日必ずカメラで撮影するようになったんです。重たいのですが、外出の時は必ず持ち歩きます。撮りたいと思った瞬間にないといやなので。

もともとカメラは持っていたのですが、使うのは仕事の時ばかりで。でも、去年、友人と遊んでいる時、何でもない瞬間も自由に撮っていて、その感じがとてもいいなぁって。私も役割のある写真ではなく、上手・下手も関係なく、純粋にワクワクする瞬間を写せたらって。あと、誰にも求められていないのがいいですね(笑)。仕事だと思ったら、こんなふうに楽しんで撮影できないかもしれない。去年は自分で撮影した写真をまとめて1冊の本を自費出版したんです。ロンドンでもたくさん撮っているから、その日々をまとめた写真集も出したいですね。

―体のケアは何かしていますか?

オーラリングをつけています。一日の心拍変動やフィットネス、ストレスに関する情報を測定するアイテムなんですが、睡眠のクオリティを測るのに役立っています。二カ国を行き来していると時差ボケもありますし、イギリスでも日本の時間に合わせて仕事をすることもあり、自分で何時間寝たか、きちんと寝られているかわからなくなることがあるので。これをつけていると、「睡眠時間が足りませんよ」とアドバイスがくるので、「今日は無理せずちゃんと寝よう」と行動が変わるのがいいですね。オーラリングをつけるだけで、すぐ健康になるわけじゃないけど、自分の状態を知っておくことで意識が上がることが大事かなと思っています。私はシルバーのアクセサリーが好きなのでオーラリングもシルバーを選びました。他のジュエリーとも自然となじむところも気に入っています。

人と自然の調和に美しさと豊かさを見出す旅へ。

―今後はどんなことをやりたいですか?

今年の9月から、インターナショナルプレマスターに入学して、アカデミックな英語を叩き込みます。そして、来年から大学院に進学予定です。大学院では都市と自然の関係性を研究したいと思っているんです。

「人間と自然が共存する」と言われることがありますが、本来人間は自然の一部であって、不可分なもの。当然、都市と自然を分かつこともできない。それは、日常の些細な瞬間を撮る習慣ができて気づいたことでした。みんな自然の中に美しさや豊かさを求めようとするけれど、都心の中にもハッと驚くような美しさはあるんですよね。そして、森が鬱蒼とある状態よりも、その中に人工的に作られた家があって、その窓に反射した光がむしろ実際の光よりも美しさを増しているというようなことがある。また、様々な国、自然がもたらす豊かさとを自分で体験して言語化したいと思っています。

フェイバリット favorite 使い続けたいもの

自分で金継ぎした ラリックのグラス

仕事を快適にしてくれる大事な相棒、何気ない日常を彩る日用品など、“いつもの自分”をつくってくれる、お気に入りのアイテムはありますか?
これまでも、これからも、長く使い続けたいものを教えてください。

フランスの蚤の市で見つけたアンティークのラリックのグラス。店主の方が「これ、好きなんじゃない?」と倉庫から掘り出してくれた植物モチーフが気に入っています。大事なものだからこそ、棚の中にしまいっぱなしにして観賞用にするのではなくて、日常使いしています。そしたら、先日欠けてしまって。とても悲しかったのですが、自分で金継ぎをしたらむしろさらに愛着が湧きました。

ドリンク drink お風呂上がりの一杯

カフェインフリーの 飛騨むぎ茶

私たちのチームは「お風呂と健康」について長年、研究してきました。心をほぐし、体をしっかり温めてくれる入浴タイムの後、喉を潤すためにどんなドリンクを飲んでいますか?
愛飲している一杯を教えてください。

睡眠をきちんと取りたいので、夜寝る前はカフェインフリーのドリンクを飲むようにしています。飲み物のバリエーションはいくつかあって、その日の気分に合わせて飲んでいるのですが、最近は友人に教えてもらった飛騨むぎ茶にハマっています。砂と一緒に蒸す「砂炒り製法」で作られているそうで、麦一粒ずつに豊かな香りをまとっていて、飲んだ後も芳ばしい香りが広がります。

Photo/Yu Inohara

Text & Edit/Mariko Uramoto