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  • シリアスなシーンでも 笑いをたやさずに。
  • お守りのようなアイテムで、 いつもの自分をキープする。
  • 一本の美しい線を求めて。 長く描き続けるための体作り。
  • ピークを見極め、 負けないこころとからだを作る。
フラワークリエイター 篠崎 恵美さん

シリアスなシーンでも
笑いをたやさずに。

interview2024.05.26

花をなるべく棄てずに活かす。そうした思いを胸に日々花や植物に向き合い、さまざまな形でその魅力を表現するフラワークリエイターの篠崎恵美さん。コンセプトの異なる3つの場の運営のほか、広告や雑誌の撮影、装花、またアーティストとしての表現活動も行うなど多岐に渡って活躍。花の仕入れがある日は朝が早く、設営があれば夜遅くまで。不規則な生活の中で心と体をベストに保つために意識していることを伺いました。

プロフィール

篠崎 恵美さん
フラワークリエイター 篠崎 恵美さん

しのざき・めぐみ フラワークリエイター。花と植物を扱うクリエイティブスタジオ〈edenworks〉主宰。ウィンドウディスプレイや店内装飾、ブランドとのコラボレーションや広告など花にまつわる創作活動、フラワーショップ「edenworks bedroom」などを都内で3店舗運営するほか、紙の花のプロジェクト「PAPER EDEN」も手がける。

私のとある一日

なるべく棄てずに花の魅力を伝える媒介者

―お花屋さんの仕事は朝が早いイメージがありますが、普段は何時に起きていらっしゃいますか?

市場がある日は朝3時に起きています。6、7時くらいに家に戻って一度寝て、10時頃に起きたら仕事をします。設営がない日は20時ぐらいに帰宅して、24時には寝ますが、夜に設営がある日は20時ぐらいから現場に入ります。早起きの日もあれば、遅い時間まで働いていたりして、不規則な生活ですね。でも、私は寝るのが好きで、ちょっとでも空いた時間ができたら寝るようにしています。どこでもすぐ寝られるのは私の強みですね(笑)。

―篠崎さんは広告やイベントでの装花をメインに活動をされていて、その後週末だけの花屋「edenworks bedroom」、ドライフラワー専門店「EW.Pharmacy」をオープンされました。それぞれのお店を開いたきっかけは何でしたか?

花屋で下積みをしていた時、鮮度が落ちた花を棄てることも仕事の一つだと教わったのですが、どうしても抵抗があって。独立をしたら撮影や装飾メインの仕事をメインにして、事前に打ち合わせをして必要な分だけ仕入れて使い切ろうと思っていました。しばらくクライアントワークをメインに続けていましたが、バレンタインデーや母の日など、一般のお客さんに向けた場所を設けたいなと思い、自分でお店を開くことにしました。ただ、毎日営業するとどうしてもお花のロスが出てしまうので、週末限定で開くことにしたんです。店を開いて今年で9年が経ち、現在はお花の楽しみ方を共有するクラスを中心とした運営に切り替えました。不定期のオープンではありますが、時間をかけてお花と向き合える場所として親しんでもらえたらと思っています。

接客中にお客さまから「このお花はドライフラワーになりますか?」と聞かれることが多くて、お客さんも私と同じ気持ちなんだと知りました。ドライフラワーにする方法を研究し、ドライフラワー専門の「EW.Pharmacy」をオープンすることにしたんです。店を運営していく中で「ドライフラワーの印象がポジティブに変わりました」というお声もたくさんいただきました。設営のお仕事の撤収後の花や、きれいにドライフラワーにならない花たちはコンポストして堆肥をつくり、植物の肥料に生まれ変わらせることにしました。「EW.Pharmacy」は現在「conservatory by edenworks」として、植物とドライフラワーをつなぐコンセプトショップとして運営をしています。

日本の手作り文化を花を介して発信する

―篠崎さんはご自身の肩書きをアーティストではなく、クリエイターと名乗ってらっしゃいますよね。表現する上で自分の個性を出すよりも、媒介するという意識が強いからでしょうか?

そうですね。花束を作るにしても装花を手掛けるにしてもお客様の思いを形にするという意識が強いです。またお客様との会話の中で、今どんなものが求められているのかということに気づかせていただくことが多く、クライアントワークをするにしても、一般の人が感じていることを伝えることも私の役目かなと思ってます。ただ、数年前からはアーティストとしての活動や「PAPER EDEN」というプロジェクトも始動しています。

―「PAPER EDEN」はどんなプロジェクトなのでしょうか?

平面の紙から立体的なお花を展開するプロジェクトです。花はつぼみの状態から少しずつ開花して満開になり、そこから少しずつ枯れていきます。そういった花の儚い一生に勝るものはないのですが、私の解釈で花をデザインしたり、枯れない花を造形することに挑戦したいと思ったのがきっかけでした。

―それはなぜでしょうか?

見た人に想像が膨らむものを届けたかったからです。このプロジェクトでは、花を身近に感じてもらいたいという目的もありますが、それ以外にも日本独自の手作りの文化を海外に発信したいという気持ちもありました。今は国内でも展開していますが、最初はミラノやLAなど主に海外で発表していました。

手作りの花って、すごく日本らしい温かみを感じる文化だなと思うんですね。というのも、私の母は編み物や縫い物が得意で、私は幼い頃から手作りのものが身近にある環境で育ちました。ただ自分が大人になると、何かを手作りをしている人が周りにあまりいなくて。手作りの文化を次世代に残し、海外にも発信したいと思い、プロジェクトとしてスタートしました。紙は和紙や揉み紙など伝統的な紙を使ったり、藍染や泥染など日本の伝統的な方法で染めたりして、どこか日本らしさを感じられるようにも意識しています。

シリアスな場面でもできるだけ笑っていたい

―クライアントワークや店舗の運営、アーティスト活動など幅広く活躍していらっしゃいますが、楽しく働くためにどういったケアをしていますか?

特別なケアはしていないんですが、基本的にすごくポジティブなんです。たとえば装花の設営は時間との勝負で、現場がピリつきやすいんですが、そういう時こそどうにか場が和むようにしたいです。というのも私自身、シリアスな状況が苦手で、基本的にいつもニコニコしてたいんですね。でも、それが自分の心の健康を保つのにとても必要なんだと思います。 

本当は臆病だし、自分に自信がなくて人前で話すこともすごく苦手でした。親しい友達も少なく、すごく小さな世界で生きていたんです。でも、花の仕事を始めたら、知らない人とも話せるようになって、引っ込み思案だった性格が明るくなりました。花は人を内面から変えてくれてすごいなって思ったんです。

私は昔の自分に戻りたくないんですね。どうしてもネガティブな思考が発動して、悪い方向に行きそうだと思ったら、花や植物に触れるようにします。そして、すぐ寝ること。あとは宇宙や広大な自然の映像を観る。『アニマルプラネット』とか『ナショナルジオグラフィック』のような動物や自然にまつわる番組です。それを観ていると、“宇宙や自然ってすごいなぁ。自分の考えてることなんてちっぽけで、こんなことで悩まなくても全然大丈夫だな”って思えるんです。

でも時々、ポジティブマインドが崩れそうになる時もあります。そういう時は長めにお風呂に入ります。お風呂の照明は落として、目を休ませます。そして、好きな香りの入浴剤を入れて、リラックスする。そうすると頭がすっきりして、迷いや悩みに支配されずにぐっすり寝られるんです。

お風呂に入っている以外のシーンでも日常的に香りを取り入れています。特にパロサントやセージなど空気を浄化してくれる香りが好きですね。フランキンセンスやホワイトセージなどのドライフラワーに火をつけて香りを楽しむことも。燃え尽きて灰になった姿も美しいなと思っています。

イギリス発のフレグランスブランド「Perfumer H」はモス(苔)と香りのフレグランスがセットになっていて、モスに精油をドロップすると、いい香りが広がるんです。人工的ではない植物の香りはすごく落ち着きます。

フレッシュのハーブティーを飲むことも多いです。その日の気分や効果に合わせてハーブを組み合わせています。寝る前はなるべくカフェインを摂りたくないので、ハーブティがちょうどいいですね。ハーブは根付きのものを鉢ごと買っています。

―自分をケアする時に頼りになるのも植物なんですね。

そうですね。やっぱりお花や植物から元気をもらっています。手作りのカルチャーが好きという話にもつながりますが、香木やドライフラワーを燃やすとか葉っぱを煮出すとか、アナログな行為も好きですね。

―篠崎さんが目指す理想の姿はどんなものですか?

自然体でいることですね。花と向き合っていると虚勢を張ったり、嘘をつくと見透かされている感じがするんです。だから、おごらず、怖気付かず、自然体で。そうすると自分にとっても心地がいいんです。いつもヘラヘラ笑いながら、和やかに過ごせたらいいですね。

フェイバリット favorite 使い続けたいもの

なくしものを防ぐ、 レザーのキーケース

仕事を快適にしてくれる大事な相棒、何気ない日常を彩る日用品など、“いつもの自分”をつくってくれる、お気に入りのアイテムはありますか?
これまでも、これからも、長く使い続けたいものを教えてください。

私、ものをなくしやすくて(笑)。家や事務所、店の鍵をネックレス状のキーリングにかけて首からぶら下げています。ストラップが細くて軽いので、日中ずっと首から下げてても肩が凝りません。これがあると安心して仕事ができます。

ドリンク drink お風呂上がりの一杯

フレッシュな葉で 煮出したハーブティー

私たちのチームは「お風呂と健康」について長年、研究してきました。心をほぐし、体をしっかり温めてくれる入浴タイムの後、喉を潤すためにどんなドリンクを飲んでいますか?
愛飲している一杯を教えてください。

その日の気分でハーブを組み合わせて、オリジナルのハーブティーを淹れています。今日は自律神経を整えてくれるペパーミント、リラックス効果の高いレモングラス、そして落ち込みやすい気分を上げてくれるレモンバームをミックスしました。効能に合わせてハーブを選ぶのも楽しいです。乾燥した茶葉にはないフレッシュな香りを楽しみたくて、鉢に植えているハーブを摘んでいます。

Photo/Yu Inohara

Hair & Make-up/Rie Tomomori

Text & Edit/Mariko Uramoto