クスッと笑えるユーモアに溢れた刺繍作品を手掛ける刺繍作家の小菅くみさん。刺繍を始めたのは病気がきっかけだったそう。その後、病気と付き合いながら、刺繍作家として独自の世界を切り拓くと、あっという間に作品が完売するほどの人気に。その後、多忙な生活の中で自分流の健康法を見つけてからは「すごく生きやすくなった」と言います。さらに最近では年を重ねるごとにアクティブになっているという小菅さんに、日々を楽しく過ごすための心得を教えてもらいました。
プロフィール
こすげ・くみ/東京都生まれ。刺繍作家。人物や動物の繊細な表情までを刺繍で表現している。繊細な中にどこかクスッと笑えるような作品を生み出し、様々なイベントや個展を開催。美術作品の他、アパレルブランドとのコラボレーション、衣装、広告、メディアなどその発表の場は多岐にわたる。著書『小菅くみの刺繍〜どうぶつ・たべもの・ひと〜』(文藝春秋)。2022 交通広告グランプリ優秀賞アートワーク担当。サウナ通いがライフワーク。
Instagram:@kumikosuge
X:@kumidesuyone
どうやったらおもしろくなるかな?と考える。
―刺繍を始めるきっかけは何でしたか?
私の祖母が絵を描いたり、手芸が得意で、小さい頃からおばあちゃんと一緒にお人形を作ったり、絵を描いたりして遊んでいました。一緒に刺繍もやっていて、その頃から好きになったんだと思います。その後、他にも趣味ができて、刺繍はしばらくお休みしていたんですが、大学卒業後、働き始めてしばらくしてから病気になってしまって。入院生活でできることを探した時に、昔から好きだった刺繍を再開することにしました。枠と針と糸さえあれば、ベッドの上でもできるので、いい気分転換になって。最初は趣味として楽しんでいて仕事にしようとは思っていなかったんですけど、作品を見た友人が「このイベントに出してみたら?」とか「こういうポップアップがあるよ」と紹介をしてくれて、そこで作品を見た人から声がかかるようになって、仕事につながっていきました。
ー刺繍のどういうところが好きですか?
自分の手で何かを生み出せるというのが好きですね。コツコツやるのも楽しいです。
ー小菅さんの刺繍はファニーで愛嬌があって、いつ見ても心がくすぐられます。独自の世界観はどうやって確立されたのでしょう?
私が作家活動を始めた頃は「刺繍」というと繊細で可憐なイメージが強かった気がします。自分で刺繍作品を作るんだったら、違うものをやりたいなと思って、クスッと笑えたり、大胆なモチーフを選ぶようになりました。基本的にモチーフは自分が興味があるものですね。たとえば好きな映画とか友達のアート作品とか。昔からマイケル・ジャクソンやE.T.が好きで、そういうキャラクターも活かしたいという思いがあります。あとは、友達との会話の中で「次、これやってみようかな」というひらめきが生まれたりもします。
クライアントワークでは、ご依頼内容と自分のやりたいことをすり合わせて、どうやったらおもしろくなるかな?ということを考えながらやっていきます。クライアントワークの中で実現に至らなかったアイデアも作家活動で活かせることがあるので、いつも頭の中で「これは刺繍にしたらどうだろう?」と考えています。サウナに入っている時に思いつくことがあるので、慌てて脱衣所に行ってメモを取ることもしばしばあります(笑)。
ー刺繍を作る上で難しいと感じることはなんですか?
人の顔の刺繍は目が似てないと違和感を感じるんですね。目がうまくいかないと全部うまくいかないから、そこが一番慎重になりますね。第一関門を突破した後は淡々と下絵通りに縫っていくので、友達とお喋りしながら刺繍することもあります。
ー活動20年の中で、スランプに陥ったり、続けられるだろうかと不安になることはなかったですか?
たくさんあります! 刺繍はすごく時間がかかるので「いつ終わるんだろう」と途方に暮れそうになることもしばしば。締め切りがあるおかげで、なんとかゴールに向けて頑張れていますが。
刺繍は好きでやっていることですが、時々「好きなことを仕事にするって大変じゃないですか?」と言われることがあります。でも、私は嫌いになることがないと思ってて。それは刺繍以外にもサウナやウォーキング、料理など好きなことがいくつもあるからだと思います。刺繍だけをやってたらイヤになってたかも。刺繍に飽きない方法を覚えたから、楽しんで続けられるんだろうなと思っています。
ただ、40代になって体力の衰えを感じ始め、老眼も始まってる気がしてて、以前のようなペースで仕事はできないなと感じることもあります。でも、周りの同世代の友達も同じようなことで悩んでいるので「あれ、よかったよ」とか「これ試してみようと思ってる」とか、いろんな健康にまつわる情報が飛び交ってて。そういう会話をしていると、年を重ねるのも楽しいなって思います。
落ち込むことが減り、生きるのが上手になった。
―サウナの中でいいアイデアが思いつくということでしたが、サウナ好きはいつから?
10年ぐらい前にサウナ好きの友人に勧められてからです。当時は「サウナ=熱くて苦しい」という印象があったのですが、現在サウナ界を引っ張っていってる人たちが、「サウナ好き漫画家・タナカカツキさんの「漫画『サ道』を読んで、その通りやってみて」と教えてくれて、言われた通りにサウナに入ってみたら、すっごく頭がスッキリして、体の疲れも取れて、これはいいなと。あと、サウナに入ると自分の気持ちの納め場になっていると感じるようになったんです。それまでは、怒りや悲しみといった感情との付き合い方が見つけられなかったんですけど、サウナに入っていると自然とその感情をうまく手放せる感覚があって。サウナに行く習慣ができてからは、仕事でスランプに陥ったり、プライベートで悲しいことがあっても、「サウナに行けば大丈夫」という自分ルールができて、落ち込むことがなくなり、生きるのも上手になったと思います。
ーサウナ、偉大ですね。
そうなんです。生きるのが楽になる方法を見つけられてよかったなって思います。サウナが好きになってからは、旅先でもちょっとした空き時間に地元のサウナに行くようになり、楽しみが増えました。ただ、サウナの熱で髪が傷みやすいので、テントサウナに入る時はサウナハットをかぶるようにしています。羊毛のタイプが一般的ですが、私は帽子ブランド〈OVERRIDE〉のコットン製のものをよく愛用しています。あとは、格闘家の宇野薫さんのブランド〈ONEHUNDRED ATHLETIC〉が柔道着メーカーの〈タネイ〉とコラボして作ったサウナハットも気に入っています。型崩れしにくく、おうちの洗濯機でも洗えるので、メンテナンスが楽なんです。
気分転換したい時や、なかなか寝付けない時は、アロマの力を借ります。無印良品のアロマディフューザーにお気に入りの精油を入れて、ミストで拡散された香りに癒されています。そうすると、サウナの中でロウリュをしている気分になれるというか、リラックスできるんですね。特に好きなのはユーカリのアロマです。好きな香りをかぐとリラックスできると体にインプットされているので、「早く寝なきゃ」という時も効果的な気がしています。
とくさしけんごさんのCD『ミュージック・フォー・サウナ』も自分を整えるために欠かせないアイテムの一つ。ゆったりとしたテンポで、聴くと心が落ち着きます。音楽が120分くらい収録されているんですけど、5分〜10分くらい聞いたところで眠くなります。こういう話をすると、音楽を最後まで聴いてもらえないと、とくさしさんの作品のマイナスプロモーションになっているかもしれませんが(笑)。でも本当にリラックスできるんです。
「やってみたい」に出合えることは最高。
―今後はどんなことをやりたいですか?
いろんなことに興味があるんですが、まずは木彫りをやってみたいです。木彫りの展示を見に行ったら自分でも作ってみたいと思って、その日のうちにホームセンターで彫刻刀を買い、木材を調達しました。「やるぞ!」と家でつくり始めたら、大量の木くずが出てむせ返って、これはだめだと断念。今のところ、家が木で埋め尽くされてるだけになってます(笑)。夏は庭でやろうと思ってたけど、暑すぎて無理でしたね。だから、どこか工房を探してやろうと思ってます。あと、始めてみて気づいたのですが、木彫りは立体だから、正面から見た図と横から見た図を合体させなきゃいけない。私は立体がすごく苦手なんだと気づいて、今は完成図を上手に書けるように練習しています。でも、そういう挑戦も楽しいですね。
「やってみたい!」と思えるものに出合えることが最高だと思ってて、最近はどんどんアクティブになっていってます。たとえば、2年前、スキーに連れてってもらったら、めちゃくちゃ楽しくて、今年の冬も行こうと思っています。先日はハードコアのライブに誘われて、最初は「普段聴かない音楽だし、楽しめないだろうな」と気乗りがしなかったんですけど、ハードコアバンドの人たちが自分より年上の方達で、演奏で疲れるからか1組のステージが5分くらいで終わるんですよ。5分で最大限のパフォーマンスをやろうとしている人たちの姿が興味深くて、その後2、3回続けてハードコアのライブに行きました。苦手意識を持ったまま、誘いを断ってたら、知らない世界だったんだろうなと思ったら、「試しに行ってみる」って大事だなって思っています。