東京カフェカルチャーの黎明期から、現在も多くのファンに愛され続ける名店〈ロータス〉と〈バワリーキッチン〉。その両店舗の味を預かる料理長の外島幸輝さんは、まさに“カフェブームの裏の立役者”といえる存在です。朝から夜まで厨房に立ち続ける日々を20年以上続けてきた外島さん。肉体にも相当な負担がかかる現場の中で、いかにして自分の健康を保ち、整えているのでしょうか。プロフェッショナルとして走り続ける外島さんのセルフケアについて教えてもらいました。
プロフィール

としま・ゆきてる/1978年、東京都生まれ。20歳から料理を始め、5年後に単身渡仏。 帰国後はファッションの仕事に携わるなど様々な経験ののちテーブルモダンサービスに入社。現在は表参道にある〈ロータス〉でシェフを務めながら、新店舗のメニュー開発はじめキッチンの総括を担う。

現場と企画、二つの視点で飲食を見つめる。
―外島さんが料理の世界を志したきっかけは何でしたか?
学生の頃はファッションに興味があって、服飾系の専門学校に通ったんです。そこで、学校近くのカフェでキッチンのバイトを始めて。ポピュラープライスの店だったので、厨房の中はいつもバタついていたんですが、たくさんのオーダーをさばいていく感じが結構おもしろくて。もともと学生時代はスポーツに打ち込んでいて、バリバリの体育会系だったので、キッチンの中の動きが自然と身についたというか。先輩シェフがつくる料理の進み具合を見て、皿を準備しておくとか、先を読む動きができて「自分、料理の世界に向いてるのかも」と。それで学校卒業後は食の道に進もうと思い、フレンチレストランに就職しました。
それからフランスに渡って2年ほど暮らし、帰国後、友人のファッションブランドを手伝うことになりました。ブランドを立ち上げたばかりだったので、軌道に乗るまでは料理のバイトをしようと。やっぱり自分の得意なことを生かした方がいいなと思って。当時友達の事務所が駒沢にあったので、よく通っていた〈バワリーキッチン〉にバイトで入ることにしました。それからこの世界がどんどんおもしろくなっていき、気づけば20年っていう感じです(笑)。


「ゆくゆくは自分の店を」と考えたこともあったのですが、やっぱりこの場所でしか経験できないことも多くて、辞める理由がなかったというか。〈ロータス〉や〈バワリーキッチン〉を運営する会社は〈HEADS(ヘッズ)〉という企画の会社もやっていて、そこでは外部のレストランのプロデュースもしているんですね。現場の仕事だけじゃなく、プロデュースする店の厨房設備を考えたり、メニュー開発をすることも多いんです。ありがたいことに常にいろんなお話をいただける会社なので、一つの案件が終わったら、次は福岡、その次は京都とだんだんと案件をこなしていくうちに、あっという間に時間が経っていたという。
自分がいる場所は、飲食の最前線というか、いろんなところからプランニングのお話をいただけるので、勉強をしながら、感性を高められる環境だと思ってて。もちろん自分自身の情報のアップデートも大事で、ロンドンやニューヨーク、パリなどで流行っている店や話題になっていることも調べるようにしていますし、あと、職場が20代の子がほとんどなので、一緒に働いてると感性がそっち寄りになっていくのもおもしろいですね。
―年齢が上がっていくと若い世代の方とのコミュニケーションや、役割の引き継ぎが課題になるという声もあります。その点、外島さんはとても自然に、軽やかにそのステップを踏まれているように感じます。
いやいや、全然そんなことないです。バトンタッチっていうことに関していうと、自分の仕事を7、8割しっかりできるような子が出てくればいいなと思うんですけど、それがなかなか難しいですよね。 だから、ずっと現場にいるっていうのもあるんですけど(笑)。
激しい変化の中で、変わらずおいしいものを届ける。
―飲食業界は入れ替わりの激しい世界。実際、10年続く店は全体のわずか数パーセントとも言われ、多くの店舗が数年で姿を消していきます。そんな中、20年以上にわたり〈ロータス〉が愛され続けているのは、決して当たり前のことではないですよね。
〈ロータス〉や姉妹店〈バワリーキッチン〉は、2000年代初頭のカフェブームの中で生まれましたが、当時の流行に乗っただけのカフェとは違い、料理を主役に据えた“ダイナーカフェ”として、味でしっかりと勝負してきました。飽きのこないおいしさを誠実に届け続けることで、時代が移っても変わらず足を運んでくれるお客さんがいるのだと思います。もちろん、時代に合わせたアップデートも必要で、たとえば近年はデザートメニューを強化し、SNSで話題となったことが新しい客層の広がりにもつながりました。何より、サボらず、まじめに続ける。それが、長くお店を支えてくれているお客さんへの、いちばんの誠意かもしれません。


―飲食店はただ、お腹を満たすだけじゃない場所なんだと。
そうですね。今、飲食店に求められているのは“食事する場所”以上の価値だと思います。特に近年はSNSの影響もあって、食とファッションやカルチャーなどの結びつきがより強くなりました。それと同時に、食べることが身体をつくることだという意識も、時代とともに高まっています。僕自身、年齢を重ねる中で、より一層体に入れるものの大切さを実感するようになりました。だからこそ、提供する料理にも責任を持ちたい。鎌倉の農家さんから野菜を仕入れるなど、安全でおいしいものを届ける工夫を続けています。
変化の激しいこの業界で厨房に立ち続けることは容易ではないですが、丁寧に、真っ当にやるべきことを積み重ねていく。それこそが、今の時代に飲食店に求められていることだと思っています。


歩く、走る。そして、整える。
―キッチンに立ち続けるのは身体的にとてもハードだと思いますが、どのようにケアをしていますか?
仕事中は12時間ほぼ立ちっぱなしで、1日の終わりには足の裏やふくらはぎがめちゃくちゃ疲れるので、お風呂上がりにペパーミントのオイルを塗って、しっかりマッサージします。オイルはペパーミント以外にもいろんな種類を持っていて気分で変えてます。〈MARKS & WEB〉のオイルはベタベタせず、サラッとしているところがいいですね。
足だけじゃなくて、腰と膝にもかなりの負担がかかるので、毎日散歩に行くようにしています。歩くことで腰と膝以外の全身の筋肉を使うのが自分的によくて。散歩はここ3、4年は続けています。 習慣化したきっかけは30代後半の頃、急に眠りが浅くなったから。何度も途中覚醒するのが辛くて、寝る前にちょっとお酒を飲んでみたり、寝具を変えたり、いろいろ試していたんですけど全然ダメで。色々と調べてたら、散歩が大事だと。それで毎日30分くらい散歩して、湯船に浸かり、マッサージをするという今のルーティンに落ち着きました。 散歩はルートは決めずに家を出た時の気分で自由に歩いています。


あと、料理しているとめちゃめちゃ油っぽくなるんですよ、体がベトベトするというか。なので、このローズマリーのフレグランスウォーターを仕事の合間に顔や体に吹きかけています。スッキリした香りがして気持ちいいんです。ローズマリーの精油と水だけで作られているというところも安心できます。料理の仕事をしていると合成科学的な香りをつけるのはためらいがあるのですが、ローズマリーは料理でもよく使うハーブでもあるので、つけていても不快感がないですね。
―食べ物で気をつけていることはありますか?
通っている整体の先生から「起床後2時間ぐらいはコーヒーを体に入れない方がいい」と聞いてから、白湯を飲むようになりました。南部鉄器の急須にミネラルウォーターを入れて白湯を作り、ゆっくり飲みながら、腸を動かすようにしています。 以前までは時々体が重く感じることがあったんですけど、そういうことが少なくなった気がします。


―休日のリラックス方法は?
ツーリングが好きで、休みの日はバイクに乗って出かけるのがいい気分転換になっています。朝、出発しないと渋滞に巻き込まれることもあるから、むしろ仕事の時よりも早起きなんです(笑)。 朝のピリッとした空気も気持ちいい。日帰りだと関東近郊に行くことが多いですが、まとまったお休みがあれば足を伸ばして遠くに行くことも。通勤する時もバイクに乗っているんですけど、その時間は考え事ができてちょうどいいですね。運転中は携帯が見られないからいいんですよ。来週のランチのメニューを考えたり、自分のやりたいことを考えたり。これからのことをイメージしながら、次につながる仕事をしていく。それがモチベーションキープにもつながっています。